| 第1話 北陸 新潟・富山篇(1) |
| 都心から3時間、日本海は安くて旨い! |
首都高は美女木インターから外環道に入り、関越自動車道に乗る。新潟まで300qはやれやれの一直線。 時速80q/hは急がず力まずの旅には心地よく、2時間ほどで車は上越ICを左に折れる。ここからは北陸自動車道で右手は日本海のはずだが、まだ潮の香りすら感じられない。 眼下に港らしきを見つけて、名立谷浜ICで北陸道を降りる。国道8号は、鳥が首岬(とりがくびみさき)を越えると、いきなり前方に真っ青な海が広がった。 “港らしき”は名立(なだち)漁港だった。がらんとした港内には人影はなく、コンクリートの堤防が遠くまでのびている。その突端に赤い灯台、青い空、青い海。水平線に佐渡島がかすんで見えて、漁船らしき影は海に張り付いたように微動だにしない。 海はべた凪、こんな日本海は珍しい。東京の大渋滞を抜けて、まだ3時間。満タンのガソリンを半分ほど減らしただけなのに、世界は様変わりしている。 灯台へと続く堤防は、海面まで10メートルはあろうか。長い釣り竿の先にカマを結んで、真下のワカメを採っている人がいた。 「信州からね、毎年ワカメを採りに来るんだよ」 手にすれば相模湾で知るワカメより厚みがあって、意外な重量感にもびっくり。これが日本海の天然ワカメか…旨そうだ。 (編集部注:北陸のワカメは梅雨時でもあるが、一般の採取は禁止されている。)
そろそろ腹がへってきたのだが、ぶらり旅にふさわしい食堂がない。どこも観光客を見込んだレストラン風が、日本海の幸などと大書している。 そんな町並みを過ぎ、車は名立から隣町の筒石に入る。入ったところが、筒石漁港である。せり出した山の崖下を国道は走り、その際に民家とも船屋ともつかない長屋が海に向かって建っていた。 「建ててから40年ほどになろうかねぇ。台風で壊れてしまって、ほとんどは新港へ移ってしまったです」 船を出す漁師がいるなら、まだ住んでいる人もいるようだ。船屋の2階にはカーテンがかかり、テレビも点いている。どこぞに普通の食堂はないかと訊けば、この先にサカナカヤという旅館兼食堂があるという。 魚か屋? おかしな名前は「坂中屋」であって、郵便局の配達員が弁当を食っているではないか。 「わしらの休憩所みたいなモンで、毎日お茶出してもらって自前の弁当を食って帰るんですわ。金? 払ったことないなぁ」 アサバガレイの煮付け定食750円は、これでもかの甘辛の濃い味で合格。ビールで日本海に乾杯したくなるが、宿を決めるまではガマンガマン…。
海岸線は、そのまま進むと能生(のう)町に入る。漁港には上越漁協地方卸売市場とあり、男衆がのんびりと漁網の繕いをしている。 「今朝まで大シケで、今日の漁はどこも休みじゃ」 今はべた凪なのに…。明日出直せと言われて帰り際、漁港の岸近く水深40cmほどに、薄茶色の大きなナマコを発見! 「オジチャン、竿貸してよ」 何だぁ〜面倒くせぇなぁ、ってな動作でナマコをゲットしてくれたのはいいが、こんなモンは食わん! とそっけない。 ナマコは、古来「コ」と呼んだ。ナマコは生コであり、コのわたであり、コの子であってすべてが珍味として知られる。 今宵の酒の肴が決まれば、そろそろ宿を見つけねばと車も急ぎ足。と、そこに加藤水産なる、魅力的な魚屋を見つけてしまった。 「ニギスだよ、ニギス。そっちはゲンゲだぁ」 ヌギスともネギスとも聞こえた、1串5匹の干物は250円だった。近頃人気が出て幻魚などと書くゲンゲが、干物とはいえ1串250円。安い! 泥にまみれたようなエビがあって、これはドロエビと呼ぶらしい。 「茹でて食べんだよ、見かけより旨いエビだ」 200gは両手いっぱいで、500円。これも晩酌の肴にと買ってしまえば、もう道草は許されない。
日が沈む日本海を右手に、ひたすら国道8号を西へ走る。断崖絶壁と聞く親不知子不知(おやしらずこしらず)はトンネルの連続で、夕闇せまって景観もわからないまま富山県朝日町へ入る。 目指すは県境から4kmほどの小さな宮崎漁港、以前にお世話になった民宿「まつや」。猛吹雪の夜、何もない…と断られそうになるのを、無理を言って泊めてもらった。本当に風呂も飯も酒もなかったのだが、心暖かいもてなしが記憶に残る。 「まぁ、アンタ。よう来なすったねぇ。まぁまぁ…」 松本操(みさお)さん81歳はニコニコ顔で、丸まった背中を伸ばすようにしてオレを見上げる。一回り小さくなった感じだが、お元気そうで何より。今も黒部の市場で魚を仕入れては、干物作りに励んでいるに違いない。玄関先の魚臭さも、軒下にずらりとぶら下がった魚のせいだった。 近所の銭湯「宮崎鉱泉」の入浴券(350円)をもらい、旅の汗をさっぱりと流す。帰ってくれば名物のツブガイが丼いっぱいに湯がかれていた。 丼を両手に持って、スープをゆっくりと口に含む。白濁した濃厚な味には、塩すらも入っていない。ツブガイに染み込んだ日本海のエキスだけと聞けば、日本酒が欲しくなる。 貝の身は爪楊枝で刺してくるりと回す、渦巻きの先端まで切らずに出せたら大成功。この部分は生殖巣であり、特に旨い部分。こうなると、お猪口よりも、茶碗酒がよく似合う。 泥エビは、茹がいても泥の色…。何やら毛虫のようでもあるが、バリッと殻を割れば中身はうっすらとピンク色。1匹食べたら、もう止まらない。これには茶碗酒よりもビールなのだった。 「アンタ、明日も黒部の市場へ行きなさるんでしょ…」 前回来たときは、朝の仕入れに同行して、魚好き同士意気投合したのだった。市場へ行くには、4時15分の起床!? しまった、飲み過ぎている…。 上越市役所ホームページ http://www.city.joetsu.niigata.jp/ 糸魚川市役所ホームページ http://www.city.itoigawa.niigata.jp/ 朝日町役場ホームページ http://www.town.asahi.toyama.jp/ |
首都高は美女木インターから外環道に入り、関越自動車道に乗る。新潟まで300qはやれやれの一直線。 










